朝鮮音楽の研究

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の音楽・軍歌・歌謡を翻訳。現在300曲収録を目指しています。開設:チュチェ104(2015)年4月23日 ※2016/8/22 コメント欄開放 姉妹サイト:http://www.geocities.jp/totalwar1939/

金正日将軍の歌(김정일장군의노래)

 

金正日n

 この記事は元々2015年5月に執筆したものをこのほど(2018年光明星節)改訂したものです。

 

金正日将軍の歌 歌詞

 

白頭山の峰降り 錦繍江山 三千里
将軍様を高く仰ぎ 歓呼の声は響き渡る
太陽の偉業を輝かす 人民の領導者
万歳 万歳 金正日将軍

 

大地の千万の花々は その愛を伝え
東西の青き海は その功績を歌う
チュチェの楽園を築かれた 幸福の創造者
万歳 万歳 金正日将軍

 

鋼鉄の胆力で 社会主義を守護し
わが国 我が祖国を 世に轟かす
自主の旗かかげ 正義の守護者
万歳 万歳 金正日将軍

 

 

朝鮮民主主義人民共和国公式訳)

ペクトゥにつらなる 麗しい祖国
将軍仰いで 歓呼にどよめく
太陽の偉業継ぐ 人民の指導者
マンセー マンセー 金正日将軍


大地の花々 その愛伝え
青き海原 その功うたう
チュチェの園きずく 幸せの創造者
マンセー マンセー 金正日将軍


鉄の意志で 社会主義まもり
我らが祖国を 世に轟かす
自主の旗たかく 正義の守護者
マンセー マンセー 金正日将軍

 

백두산줄기 내려 금수강산 삼천리
장군님 높이 모신 환호성 울려 가네
태양의 위업 빛내신 인민의 령도자
만세 만세 김정일장군

 

대지의 천만 꽃도 그 사랑을 전하고
동서해 푸른 물도 그 업적 노래하네
주체의 락원 가꾸신 행복의 창조자
만세 만세 김정일장군

 

강철의 담력으로 사회주의 지키여
내 나라 내 조국을 세상에 떨치시네
자주의 기치 높이 든 정의의 수호자
만세 만세 김정일장군

 

 

 

 

金正日将軍の歌 英語版歌詞

 

白頭山越え来たる 我らの美しき大地をつくるため
歓呼はすべての大地に響き渡り 我らの親しき将軍をお迎えするのだ
その方は太陽の事業をさらに進められる 人民の領導者 
万歳 万歳 金正日将軍!

大地のすべての花々は 広く温かいその方の愛を語り
東西の青き海は その方の偉業を歌いあげるのだ
その方は偉大な喜びを生み出される チュチェの園を輝かされる方
万歳 万歳 金正日将軍!

鉄の意志と勇気もて社会主義を守り
あまねく世界に国の尊厳を知らしめられるのだ

その方は自主を守っておられる 正義の闘士
万歳 万歳 金正日将軍!


Mt. Baekdu reaches across To shape our beautiful land.
Cheers resound all over the land, Hailing our dear General.
He's the leader of the people, Carrying forward the Sun's cause.
Long live, long live, General KIM JONG-IL!

All blossoms on this earth Tell of his love, broad and warm.
Blue East and West Seas sing His exploits in their song.
He's the artist of great joy, Glorifying the garden of Juche.
Long live, long live, General KIM JONG-IL!

The Socialist cause he defends With iron will and courage.
He raises national honour Far and wide throughout the world.
He is the champion of justice, Standing for independence.
Long live, long live, General KIM JONG-IL!

 

金日成将軍の歌』とならんで「チュチェ音楽」の頂点を占めている「永生不滅の革命頌歌」、『金正日将軍の歌』の解説。


①.創作の背景

金正日同志の頌歌の歴史は、1971年創作の『代を継ぎ忠誠を尽くします』にまでさかのぼることができる。その後も金日成主席の後継者としての地位を盤石なものとしていくにつれて1976年の『親愛なる金正日同志の歌』、1980年の『党中央の明り』と続き、金正日書記(当時)を賛美する歌謡は「首領形象音楽」の系譜において主流的なものとなっていき、多くの歌謡が創作された。

だが金日成主席死後、後継者として名実ともに朝鮮民主主義人民共和国の首班となった金正日書記にとって、父の『金日成将軍の歌』と並び立つことのできる自らを代表する歌は未だ存在しなかった。

そこで創作されたのが1997年4月9日に公表されたシン・ウノ作詞、ソル・ミョンスン作曲の『金正日将軍の歌』である。

f:id:song-of-dprk:20180223155157j:plain

↑:ソル・ミョンスン氏

ソル・ミョンスンは1935年生まれの作曲家で、2012年に亡くなった。1959年、24歳の時に『窯馬車走る』という歌謡を創作したことで金日成同志の目に留まり、以後は朝鮮人民軍協奏団専属の作曲家として活動し、金正日同志が主導した「五大革命歌劇」においても中心的な役割を占め、『党の真の娘』『密林よ語れ』などの歌劇の挿入曲を多く創作し、1973年には功勲芸術家、1978年には人民芸術家の称号を受け、北朝鮮の音楽界においてとりわけ目立つ存在となった。

1997年、彼は『金正日将軍の歌』の創作を命じられた。作曲家冥利に尽きる、最大の光栄であったことだろう。(いや、どうだろうか。ショスタコーヴィチスターリンに『森の歌』の創作を命じられたとき、重圧のあまりか飲みなれぬ酒を痛飲し泣き暮れていたというから。しかし私はソル・ミョンスンが偉大な将軍様から受けた最大の信頼に対して忠誠と義理とを果たすため、最も崇高な志でこの曲を作ったと信じている。)

同年10月、金正日同志は朝鮮労働党総書記に推戴され、正式に党と国家の首位に立った。よく『金正日将軍の歌』は、金正日同志が総書記に推戴されるとともに発表されたと解説しているものがあるが、これは誤りで実際は前述のとおりそれ以前の発表。

作曲家にとって楽譜を織りなすペン先は、軍人にとっての銃口に等しい。

銃声とともに生まれ、銃声を子守唄として育った領導者である金正日同志の頌歌は、朝鮮人民軍協奏団所属の作曲家のペン先から生み出されたのである。

 

②.歌詞について

ではそれ以前に発表された金正日総書記の歌と歌詞を比較してみよう。
この作業を経ることによって、それまでの金正日頌歌との目的・意図の違いを明らかにすることができる。

まず最も初期の頌歌『代を継ぎ忠誠をつくします』を見てみよう。


朝焼け映える早朝に
情け深いその方の姿を思います
静かな夜空に星が微笑むとき
むつまじいその愛を思い起こします

暖かなそのふところを遠く離れても
慕わしさは胸にあふれています
いつでも どこでも 胸のなかに深く
優しいその姿を描いています

今はどこにいらっしゃるのですか
北のほうの工場の道を歩かれますか
田舎の農場の道を歩かれますか
歩みごとに花が咲き誇ります

노을이 피어나는 이른 아침에
인자하신 그이영상 그려 봅니다
고요한 밤하늘에 별이 웃을 때
따사로운 그 사랑이 그립 습니다

정다운 그 품속을 멀리 떠나도
그리움은 가슴속에 넘쳐 납니다
언제나 어디서나 가슴속 깊이
자애로운 그 모습을 그려봅니다

지금은 그 어디에 계시 옵니까
북변의 공장 길을 걸으십니까
두메의 농장 길을 걸으십니까
가지는 걸음걸음 꽃이 핍니다


『代を継ぎ忠誠をつくします』は情緒あふれる詩文的歌詞だ。
ここで意図されているのは、当時謎に包まれていた新指導者の登場を穏やかに、しかし確実な形で宣言することである。しかし創作時の1971年は金正日の存在は人民大衆に公表されておらず、ぼんやりとした実情のなかでこのような幻想的な歌詞が編まれたものと思われる。

続いて1992年に創作された、より新しい『金正日同志にささげる歌』。


鴨緑江のほとりから 南海の果てまで
人民は歌う 親しきその名を
朝鮮を一身に担われた 金正日同志
千万年従わん 永遠に仰がん

この地に楽園を築いてくださった
人民は歌う 親しきその名
朝鮮を輝かす 金正日同志
千万年従わん 永遠に仰がん

チュチェの松明を 高く掲げた
人民は歌う 親しきその名
自主の前途を明らかにする 金正日同志
千万年従わん 永遠に仰がん

압록강 기슭에서 남해의 끝까지
인민은 노래하네 친근한 이름
조선을 책임지신 김정일동지
천만년 따르리 길이 받들리

이 땅에 락원을 펼쳐 주시여
인민은 노래하네 친근한 이름
조선을 빛내시는 김정일동지
천만년 따르리 길이 받들리

주체의 홰불을 높이 드시여
인민은 노래하네 친근한 이름
자주의 앞길 밝히는 김정일동지
천만년 따르리 길이 받들리


金正日将軍の歌』が登場するまではこの歌が儀礼曲として使われた。
『代を継ぎ忠誠をつくします』に比してより具体的に事績を綴っている点で
これまでの頌歌とはいささか趣を異にし『金正日将軍の歌』に近づいたが、それでも「金日成主席を継承する首領」という強いメッセージは感じられない。
いっぽう『金正日将軍の歌』には「太陽の偉業輝かす人民の指導者」「チュチェの楽園築く幸福の創造者」など、より具体的かつ鮮烈に「後継者」としての地位をアピールする意図を含んだといえよう。

つまり詩的表現を廃し、漢語を多用することでメッセージを際立たせようとしたのである。余談だが漢語が持つ音感の力強さについては日本文学者・小西甚一氏の著作などを読むと納得できるかと思う。

たとえば古来より日本の俳諧において志向された「もののあはれ」は、漢語の音感が持つ強さを常に排除し続けてきた。逆に言えば漢語には強く訴えかけることのできる音感がある。

その強みを朝鮮語の言語体系のなかで利用したのがこの『金正日将軍の歌』ということになる。
では普天堡電子楽団などが創作した金正日を題材にした歌謡曲はどうか。
謡曲の役目はより通俗性を持たせ、親密感を抱かせるものであり、首領の後継者としての絶対的な威厳を確立する目的の儀礼的頌歌とは目的が違う。

これらを総括すると『金正日将軍の歌』は、それまでに作られた頌歌とは比べ物にならないほどに「後継者」としての性格を前面に押し出した歌詞だといえ、まさに金正日頌歌の究極形なのである。

 

 

③.『金日成将軍の歌』と『金正日将軍の歌』

続いては、ともに「永生不滅の革命頌歌」の称号をわかつ『金日成将軍の歌』と比較する。

金日成将軍の歌』は現在でこそ当然のごとくに朝鮮音楽の頂点を占めているが、1946年に創作された当初『金日成将軍の歌』は、当時ソ連に指導者として認められていたとはいえ、北朝鮮地域に存在した政治的有力者たちの間のなかの一人に過ぎなかった金日成という年少の政治家個人をPRする曲であるにすぎず、その歌詞は新たな国家づくりに向けての新鮮な空気と金日成自身の若さを反映した素朴なものとなっている。

ところが『金正日将軍の歌』は違う。

すでに金日成がその神的権威を築き上げて久しく、金正日朝鮮民主主義人民共和国の絶対的統治者として君臨したその地盤を受け継いでおり、国家としての年輪を重ねてイデオロギーと支配体制は完成していた。

このような環境のなかで生まれた『金正日将軍の歌』には『金日成将軍の歌』に見られたような素朴な情緒は全く見られない。

先ほど明らかにしたように、頌歌の究極形においてはその絶対性が前面に押し出されるものであり、この観点から見れば『金正日将軍の歌』は『金日成将軍の歌』の素朴さを一切継承しなかったことになり、徹頭徹尾、くどいほどに「首領の後継者」たる事実を主張する。

あくまで金日成という年若い政治家の晴朗さをうたい上げた『金日成将軍の歌』と違い『金正日将軍の歌』で歌われる金正日という人物はもはや個人ではない。神である。

また曲調も『金日成将軍の歌』には似ていないように思われる。

いっぽう、労働新聞等のメディアにおいて「金正恩頌歌」として言及されている

金正恩将軍賛歌』が『金日成将軍の歌』ではなく『金正日将軍の歌』を多分に意識しているのは大変おもしろいところだ。

 

 

 

④.終わりに

ここまで『金正日将軍の歌』の成り立ちと性格を検証してきた。

金日成将軍の歌』とは異なり、成立過程においてすでに絶対的首領の歌となるべく創作された『金正日将軍の歌』。

朝鮮人民軍協奏団のソル・ミョンスンが多大な期待と重圧のなかで作り出した『金正日将軍の歌』。

苦難の行軍の時期を人民とともに過ごした金正日総書記が、その謙虚さのゆえに最後まで普及を拒み続けた『金正日将軍の歌』。

解放直後の熱気と混乱のなかで生まれた若々しい『金日成将軍の歌』に比して、透徹した絶対性の賛美に終始している『金正日将軍の歌』は国家としての成熟した度合いを表すものとして『金日成将軍の歌』とともに朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮の足跡を示す重要なメルクマールである。

 

 

・参考

영생불멸의 혁명송가《김정일장군의 노래》의 작곡가 설명순(uriminzokkiri)

 



 2015/05/02 解説を加筆。

2015/12/10 英語版歌詞と訳を掲載

2018/02/16 解説改訂