朝鮮音楽の研究

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の音楽・軍歌・歌謡を翻訳。現在100曲収録を目指しています。開設:チュチェ104(2015)年4月23日 ※2016/8/22 コメント欄開放 姉妹サイト:http://www.geocities.jp/totalwar1939/

『金正恩将軍の歌』は今後創作されるか?

金正恩同志が金正日同志の後継として党と国家の首位に立たれて早4年。そして金正恩同志が後継者に推戴されてから6年が経った。

朝鮮民主主義人民共和国では「音楽政治」と評されるほど音楽と政治が密接な関係を持っており、発表される音楽の内容で政治情勢がわかるといってもよい。

また金日成主席や金正日総書記、それに金正恩第一書記を題材とした音楽は「首領形象音楽」に分類されており、朝鮮音楽でも特に創作活動が盛んに行われている分野である。

金正恩第一書記が後継者となった際は『パルコルム』が創作された。これは金正日総書記の際に『代を継いで忠誠をつくします』が創作された経緯と同じであり、まさに「音楽政治」の典型的な例であるといえる。

その後総書記が逝去し、金正恩同志が正式に後継者になってからというもの、『われらの元帥様』『人民の愛するわれらの領導者』『われらはあなたしか知らない』など多くの金正恩同志をうたった歌謡が創作されてきた。

しかしながら、正式に領導者として推戴された以上、創作されるべき歌が創作されていない。そう、『金正恩将軍の歌』である。

金日成将軍の歌』にしろ『金正日将軍の歌』にしろ、膨大な数の首領領導者を形象した歌曲が存在する朝鮮音楽界でも別格の位置を占める曲として君臨している。が、金正恩第一書記にはそれに相当する歌が現在のところ存在しない(2015.3.16現在)。なぜだろうか。

金日成将軍の歌』は作曲家・金元均らによって1946年7月に創作された。この時期の7金日成同志はまだ絶対的権力を握っていたわけではなかったのだが、後に金日成同志が独裁権力を確立するのに比例してこの歌の地位もうなぎ上りに上昇し、ついには国歌と同様の地位を占めるにまで至った。

金正日将軍の歌』はソル・ミョンスンらによって1997年に創作された。この歌は金正日同志が朝鮮労働党総書記に推戴された年度に発表された。

では金正恩同志の場合はどうなのか。父君の先例に倣えば、『金正恩将軍の歌』が創作されるのに最もふさわしかったであろう時期は、朝鮮労働党第一書記に推戴された2012年4月だったはずだ。しかし、この時には創作されなかった。父君の先例を踏襲しなかったのである。

現在に至るまで『金正恩将軍の歌』が創作されていない理由は①現在は金正日総書記が逝去したのを受けての遺訓統治の段階であるから(ただし金正日総書記金日成主席が亡くなって3年間の間喪に服したことを考えると、4年という数字は遺訓統治の期間としては長すぎる気もしてくる)②後継事業に20年をかけた父君の時と違い、第一書記は継承まで3年足らずの期間しか与えられず、『金日成将軍の歌』『金正日将軍の歌』とならびたつ頌歌をつくるだけの権威が不足している可能性がある、これらが挙げられよう。

しかしいずれにしてもちょっと論拠が乏しい説だといわざるを得ない。①は前述の通りの理由で考えにくいし、②はすでに第一書記に推戴された時点で領導者としての地位を固めているわけで、これも考えにくいだろう。結局のところ、真相は不明なのだ。では今後『金正恩将軍の歌』が創作される可能性はあるだろうか?これも「無いとはいえない」程度の曖昧な回答にならざるを得ない。なぜならすでに先例を参考とすることができない段階だからである。

しかし型破りだった父君の血を継いでか、第一書記も先例や慣習に囚われない方のようであるから、今後予想だにしない機会を見つけて『金正恩将軍の歌』が発表される日が来るかもしれない。

※2015/08/06追記

新たに『金正恩将軍賛歌』という曲が登場した。曲調は『金正日将軍の歌』を意識しているようだが、この曲が現在『金正恩将軍の歌』の代替となっているのかもしれない。